秒編小説

遺志に興じる2つの光

(前回からの続き) 4月13日の金曜日。 パチパチと暖炉の火が燃え ロッキングチェアの揺れに合わせて キイキイと床の軋むが音がする。 パラパラとページをめくる音も、時折混じる。 月も欠け、窓から差し込む光は弱々しい。 薄暗がりのこの書斎で 読むともな…

いっしゅうかん。

いっしゅうかん。 おなじようびが やってきたなら、 それが いっしゅうかん。 げつようびがやってきた。 また げつようびがやってきた。 いっしゅうかん。 かようびがやってきた。 また かようびがやってきた。 いっしゅうかん。 どようびのあとに すいよう…

遺志を演じる2つの影

4月13日の金曜日。 開放された洋館の玄関扉。 塀には不自然に目立つ鎖。 それを見つけた使用人が主人に知らせ、 警備の者達は急ぎ宝物庫を囲った。 そんな中、玄関近くに位置する書斎に 一つの影が佇んでいた。 一冊の本を手に取り、口元を緩めながら。 「ふ…

名前という物種

第1話 「して代官屋」 「はい、何でございましょうか」 「その方、代官屋というには ちと小さすぎるのではないか」 「と、言いますと?」 「代官屋というからには、 それ相応に大なる人間であるべきよ」 「それはそうでございますが、問屋様、 私めの背丈と…

夕陽と橙色の花

何しているの? 公園で縄跳びをしていた少女が、 路地の隅で屈んでいる私のところへやって来て、 こう訊いた。 花を見ているのだよ、と答えた。 ふうん。 あ、オレンジ色の花だね。 色水にしたら、オレンジジュースみたいになるね。 そうだね、と言った。 潰…

180秒で何か書いてみるテスト 一次試験

この時、彼らは叫んだ。 こうしているうちにも仲間は海の底に沈もうとしている。 何故あいつを助けられないのか、と。 上官の顔は曇っていた。 時すでに遅し、としか言えなかったのだ。 みすみす嵐の中へ、未来ある若者を放つわけにはいかない。 しかし…… 友…

ひきつねとひやきつね

人里離れた森。 こうもりが巣くう、うっそうとした不気味な森。 気味悪がって、ながい間だれも近づこうとしない この森の奥には、二つの光が棲んでいました。 ひきつねとひやきつね。 ふたりはふたごの兄弟です。 ひきつねは生まれたときから りんご色にぼう…

落ちた鍵

路に残された一つの鍵 その鍵は ある扉を開く為にあるのだろう その鍵が無ければ ある扉は開かないのだろう 扉は 鍵を 待っている 鍵は あなたを 待っている あなたはどこかに 目の前に塞がる扉の鍵を 落としてはいないだろうか 振り返れば 扉の先に進む為の…

やあ、カラス君

疾風吹き抜け 桜舞い散る…… そこから先が思いつかないまま、 聞こえるのはただ、足の音。 風も吹かねば、花も無く、 虚構を作るには虚しさが必要? なんて洒落を愉しむ、ただひとり。 想像だけでは駄目だよな。 風景描写出来そうなもの、何か……お? 黒い身体…

虫の白瀬 (3)

虫の白瀬 (2) 「……お逃げ下さい、お嬢さん……」 「え? 今、誰か私のことを呼びましたか? ……誰もいませんわね。 あの声は確か…… ……でも、何だか雰囲気が違うわ。 気のせいだったのかしら。 もう時間ね。 今度ゆっくり調べてみましょう。」 「……お逃げ下さい…

閃嵐(ナウ)

軽い風 重い風 頬をかすって 吹き抜ける 出会い そして紡ぎ合い 糾える 閃嵐 左回りに 渦巻いて からだを 閉じ込める 時に微笑み 時に蔑み こころを 弄ぶ 沈む時もある 浮かせるのは 閃嵐 浮かれる時もある 沈ませるのは 閃嵐 抜いたつるぎに 力を込めて 重…

虫の白瀬 (2)

虫の白瀬 (1) 「おや?君は確か……」 「あら?貴方は…… あ、思い出しましたわ。 夢の世界でお会いしましたわね? 「おお、そうだったそうだった。 久しぶり……とは言えんかも知らんが、 ともかく、また会えて光栄だよ。」 「私もですわ。オジサン。」 「はっは…

虫の白瀬 (1)

「おや、君は誰かね?」 「あら、貴方こそどなたで?」 「私は……いや、 どうやらここは、夢の世界のようだ。 だから、互いに名乗らずに居ろう。」 「そうですね。ではそうしましょう。」 「ところで、君はどうして私の夢に入り込んだのかね。」 「まあ、貴方…

虫の音

蝉が鳴いていた。 蝉が鳴けば、外の世界は暑いのだろう。 しかし、蝉の音は止んだ。 鳥が鳴いていた。 何鳥か知らんが、涼しさが期待できそうだ。 しかし、鳥の音も止んだ。 今、外の世界は無音だ。 静かに、私を待ち構えている。 そして私は、無音の世界に…

給食ロボット

「はい、全員着席っ。 当番、食礼して。」 「『しょくれい』ってなに〜?」 「『とうばん』じゃなくって、名前でよぼうよ〜。」 「あっ、低学年教室だったか… じゃあ、園田さんと田上くん、お願いね。」 「うわー、『だんじょさべつ』だー。」 「ほんとだ、…

望みの欠片

見たいもの やりたいこと。 それは、このつまらない灰色の世界に散らばる 色とりどりの欠片。 それは、このつまらない灰色の世界に架かる 色とりどりの橋の欠片。 俺のくすんだ心に、鮮やかな彩りを添える。 そんな 夢に満ちた欠片。 そんな 夢に満ちた欠片…

国王の最期

「陛下!敵軍は目前に迫っています! 外の兵士は、もう壊滅寸前です!」 …そうか。 「私どもの力不足のせいで、 陛下をこのような目に… 必ず、必ず、命に代えても、 陛下をお守り致します!」 もうよい。 「し、しかし陛下…」 もうよいのだ。 これは定めなの…

奇怪な作文

部屋の整理をしていたら 奇怪な作文を発見した。 無断転載してみる。 「いらっしゃい。」 この時間に、決まってやってくる。 「お茶、一杯」 「かしこまり。」 喫茶店は茶を飲むところだ、と考えている。 「おまちどお。」 「どうも」 この店の品書きに、「…