虫の白瀬 (2)

虫の白瀬 (1)


「おや?君は確か……」
「あら?貴方は……
 あ、思い出しましたわ。
 夢の世界でお会いしましたわね?
「おお、そうだったそうだった。
 久しぶり……とは言えんかも知らんが、
 ともかく、また会えて光栄だよ。」
「私もですわ。オジサン。」
「はっはっは。オジサンか。
 そう呼ばれるのも、その時以来だ。
 君以外にそのような呼び方を出来るものはいないからな。」
「あら、オジサンはお偉い方なの?」
「ん?まあ、そうかも知らんな。」
「もう、何も教えて下さらないのね。」
「まあいいじゃないか。秘密が多い方が楽しいものだぞ。」
「そうかしら?」
「そうだとも。」
「これだから夢は苦手だわ。」
「そうか?だが君は「夢人(ゆめびと)」だろう?
 多くの生き物は、夢の中に理性を持ち込むことが出来ないのだよ。
 そう考えると、君は恵まれているじゃないか。」
「ええ、そうね。
 でもそのお陰で、私はいつだって休んだ気になれないわ。」
「そうかな?私は此処でしか出来んことを楽しんでおるがね。」
「オジサンには私のような乙女心は理解出来なくってよ。」
「これは失礼、お嬢さん。
 そうだな。価値観は人夫々だ。」
「オジサンのお陰ですっかり草臥れてしまいましたわ。」
「はっはっは。
 そりゃ休んだ気にはならないな。」
「笑いごとじゃありません。」
「すまんすまん。
 では、ひとつ潮騒でも聞いて落ち着こうか。」
潮騒?近くに海があるの?」
「おや?知らなかったのかね。
 振り返ればすぐそこだ。」
「まあ!私全く気付きませんでしたわ。」
「そうか。この前もここで出会ったのだが、
 ずっと背を向けていたのだな。」
「それにしてもこの海、とても白いのね。」
「ああ。ここは「虫の白瀬」と呼ばれる所でな……
 ……おや、もう時間のようだ。」
「あら残念。結局あなたのことは何も知れなかったわ。」
「はっはっは。
 しかし、二度会うことが出来たのだから、きっと三度目もあるだろう。
 その時にゆっくり話そうではないか。」
「そういって、また先延ばしにされそうですわ。」
「はっはっはっは。
 では、ごきげんよう。」
ごきげんよう。」


虫の白瀬 (3)