名前という物種

第1話

「して代官屋」
「はい、何でございましょうか」
「その方、代官屋というには
 ちと小さすぎるのではないか」
「と、言いますと?」
「代官屋というからには、
 それ相応に大なる人間であるべきよ」
「それはそうでございますが、問屋様、
 私めの背丈とは関係のない話。
 人の丈の長さを容易く伸ばすなどということが
 可能だとお考えですか?」
「できぬのか。
 なら小官屋と名を改めるが良い」
「へへえ、合点承知の助」

第2話

昔々あるところに、少女とおばあさんが暮らしていました。
少女は赤いずきんをかぶっていたことから、
皆に「赤ずきん」と呼ばれていました。
ある日、赤ずきんはおつかいを託かることになりました。
おばあさんは赤ずきんに言いました。
「寄り道は絶対にしてはいけないよ。
 特にオオカミには気をつけなさい。
 赤ずきんなんて、一呑みだからね」
赤ずきんは忠言を聞くと、颯爽と家を飛び出しました。
するとそこへ、オオカミが現れました。
オオカミはよだれを垂らしながらこう言いました。
「おお、おお、美味しそうな女の子だ。
 どれ、味見させてはくれないかい?」
今にも大口を開けて噛り付こうとするオオカミに
赤ずきんは最初で最後の頼み事をしました。
「このお話は『赤ずきん』だから、
 あなた、この赤ずきんを冠ってね」
すると、オオカミは言いました。
「なるほどなるほど、合点承知の助」

第3話

「さて、チノ君よ。
 先の2つの話を読んで、どう思ったかい?」
「はい、先ず第1話ですが、
 代官屋と問屋の立場が全く逆です」
「ふむ、なるほど。
 確かに時代劇において代官屋の方がお偉方だな」
「次に第2話ですが、
 『赤ずきん』では、少女と老婆は同居していません」
「ふむふむ。
 一般的には、祖母の家を訪れることが目的であったな」
「私が思ったのは、以上の点です」
「ふーむ。そうか。
 キミは常識は持ち合わせているようだが、
 一方でユーモアが足りんのではないかな?
 もう少し感情を感じ取ると良いと思うぞ。
 ところで、キミの名前は何だったっけ?」
「はい、私の名前は、画展商チノ助」