虫の白瀬 (1)

「おや、君は誰かね?」
「あら、貴方こそどなたで?」
「私は……いや、
 どうやらここは、夢の世界のようだ。
 だから、互いに名乗らずに居ろう。」
「そうですね。ではそうしましょう。」
「ところで、君はどうして私の夢に入り込んだのかね。」
「まあ、貴方がこちらへいらしたのでしょう?」
「さて、どうかね。夢の世界は複雑だからな。」
「そうでしょうか。
 私はそうは思いませんけど。」
「ほう、単純な世界だと?」
「ええ、でなければ私がここまで辿りつけませんもの。」
「はっはっは。そうかそうか。
 やはり、君がこちらへ来たのだね。」
「あらいやだ。そういうつもりで言ったのではありませんわ。」
「よいよい。どちらが来たって同じ事だ。
 折角出会えたのだから、仲良くしようじゃないか。」
「いけずなオジサンですこと。」
「はっはっは……ん?
 オジサンとな?」
「あら、どこからどう見ても貴方オジサンでしょう?」
「そうか……そうだな。
 私はオジサンだ。
 そんな呼ばれ方を聞かないものでな、驚いてしまった。」
「そうかしら?大分オジサンに見えますけど?」
「全く、意地の悪いお嬢さんですな。」
「うふふ。よく言われますわ。」
「そうかそうか。自分をよく観察しておるな。」
「誰かさんとは違いまして。」
「はっはっはっは。」
「ところで、オジサンは何をされているのですか?」
「私か?私は……
 ……残念ながら時間のようですぞ、お嬢さん。」
「あら、そのようですね。」
「もしまた出会えたら、お話しましょうかな。」
「是非楽しみにしておりますわ。
 ごきげんよう、オジサン。」
ごきげんよう。」


虫の白瀬 (2)