やあ、カラス君

疾風吹き抜け 桜舞い散る……
そこから先が思いつかないまま、
聞こえるのはただ、足の音。


風も吹かねば、花も無く、
虚構を作るには虚しさが必要?
なんて洒落を愉しむ、ただひとり。


想像だけでは駄目だよな。
風景描写出来そうなもの、何か……お?


黒い身体に 黒い羽根
図体の割には ちょこまか歩き
はっぱ銜えて 列組んで
たまにドジ踏む カラス君


……なんか良いかも。
即席だけど、ちょっと良いかも。
もそっと手を加えれば、作品に仕上がるかな?


インスピレーションをありがとう、カラス君。
でも、はっぱなんか銜えてどうするんだろ?
そっと聞いてみようかな。


 やあ、カラス君、
 ご精が出るねぇ。


  おお、ニンゲン君。
  天気で助かったよ。




……しばしの沈黙。
先に口を開いたのは、「カラス君」のほう。


  どうしたんだ?
  豆鉄砲食ったような顔してよ。


 今の声、カラス、か?
 カラスが、喋った、のか?


  喋っちゃいけねえのかよ、俺。
  どこのどいつが決めたんだ?


 いや、カラスは喋んないでしょ?
 え、声真似すんのってカラスだっけ?


  オウムと一緒にすんなよ。
  ニンゲン君も、意外と馬鹿なんだな。
  で、用は何だ?
  こちとら忙しいんだ。


 いえ、あの、その、
 どうしてはっぱを銜えてるのかなあ、と……


  ったく。
  そんなことで呼び止めんなよ。
  ちっとは頭を使え、ニンゲン君。


 そんなこと言われても……
 それに、「ニンゲン君」って呼び方……


  文句があるなら「カラス君」を止めてくれ。
  話はそれからだ。
  おっと、時間が無い。
  じゃな。


 あ、待って、カラ……


……へぇー。
カラスも喋るんだ。
これ、作品に使えないかな?
あ、でも了承得てないや。
……カラスだし、別にいっか。


それにしても、「ニンゲン君」か。
まいったなあ。
今度会った時に謝ろう。
あ、いけね。
名前聞いてないや。